歌声合成ソフト「UTAU」を使ってトークを再現することを「HANASU」といいます。その調声方法は様々で、多種多様なテクニックやコツがあります。
以前、私のHANASU調声のやり方についてはこちらの記事で説明させて頂きました。
今回は、より実践的な調声のテクニックをご紹介します!
といった方は、是非ご自身の調声に取り入れてみてください。
テクニック①「い」の代わりに「え」を使う
まず最初にご紹介するテクニックは「い」の代わりに「え」を使う、というものです。
もう少し説明しますと、調声するセリフの中にある「い」の音声を「え」の音声を使用して調声する、ということですね。
実際にセリフサンプルを調声して説明していきます。
セリフサンプル「おい」
今回は例として、「おい」というセリフを調声していきましょう。
相手に呼びかけるとき等に使うあの「おい」ですね。私はよくツッコミ役のキャラにこのセリフを喋ってもらう場面が多いです。
まずは文字通り「お」と「い」の音声を使って調声してみましょう。使用音源は重音テトです。
今回は下の画像のように調声してみました。
調声のやり方については、ほぼ先ほど紹介した過去記事で説明してある通りです。
細かく説明しますと、今回は「い」を短く切るように発声してほしかったので語尾息は使用せず、「い」のエンベロープを削って調声しています。
また、「お」の部分の音声については「- お」だと少々幼い感じがしたので「o お」で代用しました。
音声データは次のようになります。
至って普通に「おい」と言っている感じの調声ですね。
では続いて「い」を「え」に代えて、「おえ」という文字列で調声してみましょう。
こちらは下の画像のように調声してみました。
大まかな調声は「おい」の場合とほぼ同じです。ただ、「え」の部分のエンベロープとピッチ曲線、先行発声についてはより自然に聞こえるように修正しています。
そして音声データはこちら。
聞いてみると、「おえ」の文字列で調声しているにもかかわらず、「おい」と言っているように聞こえますね。
このように、「え」の音声は「い」の代用として使用することができるのです。
このテクニックの使い所
では、この「い」を「え」に代えるテクニックはどのような場面で使えるのでしょうか。
主に次の2つのパターンがあります。
「い」の音声をあいまいにしたい場合
先ほどの2種類の音声データを聞き比べてみて下さい。若干違いがあるのがわかるでしょうか?
「おい」のほうは活舌良くはっきり「い」と発声しているのに対して、「おえ」のほうは喉の奥から「い」の音を発音しているような、曖昧な発声になっています。「え」の音声を使うことで発音が曖昧な「い」の音声を作ることができるのですね。
このように、「い」の音声を曖昧にしたい場合にこのテクニックが役に立ちます。
私の場合は、先ほどの「おい」や「○○してんじゃないわよ」等のセリフでよく使っています。このテクニックを使うことによって、「い」で調声した場合とは違った印象を視聴者に感じてもらうことができるのです。
収録されている「い」の音声が使いにくい場合
使用する音源によっては、ノイズがあったり音量バランスがおかしい等の理由で、収録されている「い」の音声が使いにくい場合があります。
あるいは音声そのものに問題がなくても、調声しようとしているセリフに対して収録されている「い」の音声が合わなかった、といったこともあるでしょう。
そのような場合に、「い」の代わりとして「え」を代用することでこの問題を解決することが出来ます。
これにより、単音階の音源でも複数の「い」の音声を使い分けることができます。
HANASU以外での使用例
実はこのテクニック、HANASUに限ったものではなく、他の音声合成ソフトによるトークでも使うことができます。
参考に、Synthesizer Vのトークでこのテクニックを使っている動画をご紹介します。
こちらの動画ではUTAUの東北きりたん、VOCALOID4の東北ずん子、そしてSynthesizer Vの琴葉茜・葵を使用しています。
このうち、動画の後半に琴葉茜の「ほれ葵!ほれ!」というセリフがありますが、この「葵」の「い」を「え」の音声を使って調声しています。
そのセリフの調声データ画像がこちらです。
重音テトでやったときと同様に、こちらでも「え」が「い」のように聞こえますね。HANASU以外の合成音声トークをしている方もこのテクニックは応用できますので、是非使ってみてください。
テクニック② さ行の前にある促音の調声方法
続いてのテクニックは、促音の調声に関するものです。
促音とは簡単に言うと「つまる音」のことで、文字では「っ」のように小さい「つ」で表記されます。
通常の促音の調声は特に難しくはないのですが、さ行の前に促音が来る場合は通常の促音とはまた異なる調声をする必要があります。
通常の促音の調声方法
まずは通常の促音の調声方法がどのようなものか説明しておきます。
通常の促音の場合は非常に簡単。促音の部分に無音を使用すれば基本OKです。
今回は「ジーニアスって言いなさい」というセリフを例として調声してみましょう。使用音源は同じく重音テトです。
調声したHANASUデータの画像と音声を下に貼っておきます。
音声を聞いてみると、無音を使用することでしっかりと促音を再現できていますね。
また、画像では「っ」のノートを使用していますが、重音テトは「っ」がエイリアスとして登録されていませんので、無音として使用することが出来ます。
音源によっては促音用の音声を「っ」に登録されている場合もあります。その場合はその音声を使ってもよいでしょう。
そうでない場合は今回のように「っ」や、休符(UTAUでいう「R」)を使って調声してみてください。
さ行の前にある促音の調声方法
それでは本題のさ行の前にある促音の調声方法をご紹介していきましょう。
こちらでは例として「一切関係ないから」というセリフを調声していきます。
さて、さ行の前にある促音はどのように調声するのかといいますと、さ行の無声音を使用します。
こちらが実際に調声したデータの画像です。
そして音声データがこちらです。
聞いてみると、確かにそれらしい発声でしゃべっているように聞こえますね。
ここで、より違いが分かるようにするために、同じセリフで促音の部分に無音を使って調声したデータも用意しました。
こちらがその画像と音声になります。
聞き比べてみると違いがはっきり分かりますね。無声音を使用したHANASUは違和感がないのに対し、無音を使用したHANASUは促音の部分で音が途切れて不自然になっています。さ行の前にある促音は通常の促音と違って、無音になっているわけではないということですね。
因みに、無声化するさ行の音声は主に「し、す、しゅ」をよく使います。
今回は「す」を使いましたが、これはセリフによって使い分けてみて下さいね。
因みに、は行の場合でも使えます
このテクニックはさ行のみでなく、は行の前に促音が来る場合でも使えます。
日本語ではあまり該当する言葉がありませんが、外国由来の言葉だと「バッハ」や「ビュッフェ」などの言葉がこれに当たります。さ行の場合に比べると使用頻度は減ってくるとは思いますが、覚えておいて損はないでしょう。
参考として、「バッハはいいね~」というセリフを重音テトさんに喋ってもらったデータを添付しておきます。
今回は上記のさ行の場合とは違い、促音の後ろにある「は」の音声を、促音に使っている「- は囁」と「a あ」の音声を繋げることで再現しています。因みにLyricには「ばはあのきょくわいね」とありますが、簡略化のため「のきょく」は略しました。
「バッハ」の「は」の音声を使わなくても、このようなアプローチ方法があることも知っていると便利なので是非使ってみて下さい。
最後に HANASU調声のコツ
今回はHANASU調声のテクニックとしてより実践的な調声方法をご紹介しました。
最後に自分が意識してるHANASUの調声におけるコツをご紹介しておきます。
それはセリフの文字通りに調声するのではなく、「セリフの聞こえた通りに調声する」ということです。
というのも、セリフの文字とセリフを読み上げて聞こえた音声は必ずしも一致するとは限らないから。
それこそ今回ご紹介したテクニックのように、促音でもさ行の前に来るものは無音ではなく無声音が鳴っていたり、「い」の音声を使うよりも「え」の音声を使ったほうが自然に聞こえたりすることもあります。
なのでセリフの文字にとらわれることなく、聞こえた音声を頼りに調声するということが重要になります。
あらゆるセリフに関してもどのように聞こえるかという点を重視することで、ご自身のHANASU調声力を今まで以上に上達させることができるでしょう。
是非このコツを意識して、HANASUの調声に取り組んでみて下さい!