VOCALOIDとはまた別の新しい音声合成ソフトとして発表された初音ミクNT。
発売から半年以上が経ちましたが、2021年6月24日のアップデートで、本来発売時に付属予定だったボイスライブラリーの「Dark」と「Whisper」がとうとう追加されました!待ちに待ったアップデートですね。
というわけで、それぞれの音源がトークで使用するとどのような発声をしてくれるのか、早速使い比べてみました。
トークロイドをやっていて、
と気になっている方々の参考になればと思います。
各ライブラリ聴き比べ!
それでは早速、各ライブラリのトークを聴き比べてみましょう!
今回はこちらの動画で使用したセリフを喋ってもらいます。
ミクちゃんとテトさんの掛け合い回ですね。こちらの動画で出てくるミクちゃんは初音ミクNT発売時からあるボイスライブラリー「Original」を使用しています。セリフは4つありますが、このうち3つを「Dark」と「Whisper」でも喋ってもらい、どんな感じになるか試してみましょう。
セリフ1つ目「私気になりすぎて夜しか眠れないことがあるの」
動画一発目のセリフですね。ピッチ曲線はこんな感じです。
因みに、今回のミクちゃんのセリフは全てUTAUでピッチ調声をしたustを「ConvMaki」というプラグインでvsqxに変換して読み込んでいます。
このやり方については別の記事で解説していますので、良ければそちらもご参照ください。
そしてOriginal、Dark、Whisperの各ライブラリで喋ってもらった音声データがこちら。
Original
Dark
Whisper
私の調声力不足で少々活舌が良くないですが(すみません……)、各ライブラリの違いははっきり確認できますね。
Darkは名前の通り暗めの声になっています。最初の「私」のところがピッチの低めになっており、Originalよりも落ち着いているような発声で良い感じですね。しかしピッチが上がってくるとなんだか若干ハスキー感が増しているような気がします。この辺はSuper Formant Shifter辺りのパラメータをいじってあげた方がよさそうです。
Whisperも名前の通り囁き声になっているのですが、音量が小さめになっておりひそひそ声といった感じになっていますね。ASMRなんかに向いていそうです。
セリフ2つ目「聞いてよ」
続いてはこちらのセリフ。
そして各ライブラリの音声データです。
Original
Dark
Whisper
低めのピッチなのでDarkが良い感じで喋ってくれるかなと思っていたのですが、そこまででもない印象でした。全体的にどのライブラリもこもりがちな発声で少々聞き取り辛いですね……(Whisperに関しては音量の小ささもありかなり聞き取り辛くなってしまいました……)。
セリフ3つ目「テトだけ証明写真みたーい」
最後はこちらのセリフです。
それでは音声データをどうぞ。
Original
Dark
Whisper
2つ目のセリフと打って変わって今回は高めのピッチ。Darkが全体的にハスキーな感じになるかと思いきや、至って普通に喋ってくれました。というか、セリフの最初の部分はかなりOriginalと似ていますね。後半の「~みたーい」の部分はDarkっぽさが出てくるという面白い発声をしてくれました。
Whisperは安定のひそひそ声。少々幼さが強く出ている印象がしますが、「~みたーい」のところがいい感じの囁き具合になっていますね。
DarkはOriginalに比べて暗めではあるものの、セリフや調声次第ではOriginalに近い声も出せる。
Whisperは音量が小さめで他の音源と同時に使う場合は音量調整が必要になりそうですが、他ライブラリでは難しい囁き声を簡単に出せる。
と、どちらもしっかり特徴のあるライブラリになっています。これらのおかげで初音ミクNTもさらに多様性のあるセリフを喋ってくれそうですね!
NTとV4Xの違いは?
これまでNTの各ライブラリがどのように喋ってくれるのか見てきました。
それでは従来のVOCALOID版である初音ミク、「初音ミクV4X」と比べてみるとどのような違いがあるのでしょうか。ここでは主に機能面での違いを見ていきましょう。
NTについては今後のアップデートで機能が追加される可能性もありますので、本記事執筆時に公開されている最新のバージョン(初音ミクNTv1.0.0.7、Piapro Studio NT v3.0.3.4)で比較します。
ライブラリ数
NTには上記の通り「Original」「Dark」「Whisper」の3種のライブラリが実装されました。
これに対し、V4Xは「ORIGINAL」「DARK」「SWEET」「SOFT」「SOLID」という合計5種類ものライブラリがセットになっています。さらに英語ライブラリも付属したバンドル製品もラインナップされているという至れり尽くせり状態。
NTの3つも十分多いのですが、V4Xのこのライブラリ数を見るとちょっと物足りなく感じてしまいますね……。
実際のところ、「実作業でどれだけのライブラリを使用するか」は人によって違います。「ライブラリなんて1つで十分!」という方もいるので単純にライブラリ数が多ければ良いというわけではありません。
しかし、ライブラリ数が多ければそれだけトークの表現の幅が広がります。そういう意味で言えばライブラリ数においてはやはりV4Xの方に軍配が上がりますね。
クロスシンセシス
V4Xでは「クロスシンセシス」という機能が使えます。
簡単に言うと2種類のライブラリを混ぜ合わせる機能ですね。これにより「ORIGINALにDARKを混ぜて暗めの印象を加える」、「ORIGINALをメインで使いつつ、セリフの一部分だけをSWEETで喋ってもらう」といったことが可能になります。後者はUTAUの統合音源でも似たようなことが出来ますが、前者についてはVOCALOID特有の機能ですね。
このクロスシンセシス、非常に便利な機能なのですが残念ながらNTでは実装されていません。個人的にクロスシンセシスは結構使いますのでこれが無いのはかなり痛いですね……。今後のアップデートで追加されることを切に願うばかりです。
エディターソフト
エディターソフトとは、ざっくり言うと合成音声を操作するためのソフトです。これを使って合成音声に歌ってもらったり、喋ってもらったりします。
従来のVOCALOID音源はエディターソフトが付属していないので別途VOCALOID Editorというエディターソフトを購入する必要がありました。しかしクリプトン製のVOCALOIDにはPiapro Studioというエディターソフトが付属しているので、音源を購入するだけでVOCALOIDと使うことが可能です。
もちろん初音ミクV4Xも例外なくPiapro Studioが付属しており、初音ミクNTでは上で書いた通りPiapro Studio NTという初音ミクNT専用のエディターソフトが付属しています。
パラメータの種類の違いはあれど、操作感に関してはほぼ同じでそこまで差はありません。
ですが、V4XのPiapro StudioはVSTプラグイン版しかなく、DAWソフトを起動して呼び出す必要があります。
V4XにはDAWソフトも付属しているのでDAWソフトを持っていなくても使用するのには問題ないのですが、トークロイドをする度にDAWソフトをいちいち立ち上げなければならないというのは少々手間ですね……(MIX作業をするためにDAWソフトを立ち上げているならこの限りではありませんが)。
それに対してNTに付属しているPiapro Studio NTはVSTプラグイン版とスタンドアロン版の両方があるのでDAW無しで使うことができます。もちろんDAWから呼び出して使うことも可能です。これについてはNTの方が使い勝手が良いですね。
まとめ NTとV4Xどちらを選ぶ?
以上、今回は初音ミクNTの各ライブラリに喋ってもらい、且つNTとV4Xの機能面での違いを比べてみました。
という話なのですが、私個人の見解としては、
- 声やキャラのビジュアル等が気に入った方
- 機能で選ぶならV4X、今後の展開に期待するならNT
といった感じですね。
特に重要なのは①。創作において、「お気に入りのものを使う」というのはモチベーションに関わる非常に重要な要素です。今回のV4XとNTでは、声が全く同じというわけではありませんし、キャラクターのビジュアル(デザイン)もそれぞれ異なっています。理由は何でも良いので、とにかく気に入った方を使うのがオススメです。
その上で、機能を重視するならV4Xだと思います。上記の通りV4Xはライブラリ数も多く、さらにクロスシンセシス機能があるので表現の幅が非常に広いです。これのおかげで様々なセリフを柔軟に喋ってくれることでしょう。
ただ、NTの方は今後のアップデートで新しい機能が実装される可能性もあります。それを考えてNTを選ぶのもアリです。また、エディターソフトがスタンドアロンで使えるのでなかなか操作性が良いのもポイント。
いずれにしても、どちらも高性能な音声合成ソフト。今後の発展に期待大ですね!
おまけ 初音ミクNTとは
そもそも、
という方に向けて簡単にご説明しておきます。
初音ミクNTとは、株式会社クリプトンが独自に開発した、VOCALOIDとは異なる新しい音声合成ソフトです。
と言っても、基本的な操作方法等はVOCALOIDと殆ど同じなのでVOCALOIDユーザーなら問題無く使えます。
ただし、VOCALOIDとは別のソフトになりますので、VOCALOID Editorや従来のPiapro Studioでは使用することが出来ません。その代わりに初音ミクNTでは専用のエディターソフト「Piapro Studio NT」が付属しており、そちらで操作することになります。
その他、詳しい仕様等については公式サイトをご参照ください。